釣具に歴史あり。全4回でお伝えするアブ・ガルシア編。 取材にはピュア・フィッシング・ジャパン (以下PFJ)の製品開発に尽力されてきた立原氏、PFJ商品開発の中枢を支える石川氏、という豪華メンバーにご協力いただきました。 第3回のテーマはアブ・ガルシアの現在のリール開発にスポットを当てます。どのような考え方で現在の釣具づくりに取り組んでいるのでしょうか?PFJの商品開発の中枢を支える石川氏にお話いただきました。
【前回までの記事はこちら】
第1回「すべての起源、アブ社の創立」
第2回「伝説的リール・アンバサダーの登場」
【アブ・ガルシア編:第3回】商品開発の「哲学」とは?
~ 現在も受け継がれるアブ・ガルシアの「願い」 ~
ツリグラ編集部(以下 編) : 様々な経緯を経て今の「アブ・ガルシア」があると思います。現在の商品開発についてお聞きしたいです。
石川氏:アンバサダーという大きなブランドこそありましたが、一昔前までは丸型リール以外で他社に遅れを取っていたのは事実です。特にロープロファイルモデルでは他社はかなり良いリールを出していました。
編:なるほど。
石川氏:そういった経緯で我々も新たなロープロモデルを打ち出す必要がありました。そこで改めて本気で開発に取り組んだのが「Revo(レボ)シリーズ」です。発売は2006年となりました。
編:いよいよレボの登場ですか!
石川氏:実は当初レボは日本市場よりアメリカを意識したモノづくりの手法を取っていました。
編:海外向けリールの場合、何かしら日本向けのリールとは異なる点があるのでしょうか?
石川氏:違いはもちろんあります。車で言うと、同じモデルでも北米向けと日本向けの車がそれぞれあるようなものです。しかし基本的なモノづくりへの思考はアンバサダーを発売した頃から一貫しています。それは「シンプルであること」です。
編:「シンプル」と言いますと?
石川氏:モノづくりをしていると、どうしてもあれもこれもと機能を追加しようとしてしまいがちです。そうするとリールの構造も複雑になってしまい、「釣りの本質」からずれていってしまう。 我々のモノづくりでは「基本性能を上げていくこと」に特化しています。
編:本当に必要な機能だけ残している、ということですね。
石川氏:そうです。ですから開発の現場では「それって本当に必要な機能なの?」という会話があります。レボシリーズにしても昔のロープロモデルから見た目こそ進化はしていますが、モノづくりへの本質的な考え方は変わっていません。
編:アブ・ガルシアの哲学のようなものですね。
石川氏:例えばベイトリールだと「バックラッシュしない」という機能はもちろん重要です。しかしアブの考え方では、そこは本質ではありません。敢えてバックラッシュしないギリギリのところで設計しています。そもそも、完全にバックラッシュしないリール=飛ばないリールになってしまうからです。
編:なるほど。
石川氏:「シンプルな釣具を通じて、釣り人が上達していくこと」こそ大切だと我々は考えています。ある程度釣り人が乗り越えなければいけない壁を残し、それを乗り越えて欲しい。例えば車の運転でも車性能の進化と共に運転者の技術が落ちていきます。同様に釣り人も釣具に頼りっきりでは上達しません。
編:釣具と共に釣り人も成長して欲しい、ということですね。
石川氏:ですので「釣具を操る楽しさ」という部分を残しつつ商品開発をしています。実際、アブのリールはカスタムする方も多いですしね。ちなみに現在もアンバサダーが愛されているのは、親子代々引き継がれていることも理由の1つです。例えばおじいちゃんが使っていたアンバサダーをお孫さんが使用している、とか。アンバサダーと共に人生を歩み、各世代が成長していくというのもうれしい話です。
~ 唯一無二のデザイン ~
石川氏:現在はスピニングリールにも力を入れています。これはROXANI(ロキサーニ)ですね。
編:シックな見た目でカッコイイですね。
石川氏:アブリールに一貫して言えることですが、このデザインの魅力も人気の理由の1つです。
編:わかります。何とも言えないような・・・所有欲をくすぐられます笑
石川氏:「言葉では言い表せないけど何かカッコイイ」みたいな感じです。一目見たときに「あ、これ欲しいな」と思っていただけるようなプロダクトデザインを意識しています。
編:このロキサーニもカッコイイですもんね。思わず「欲しいな・・・」と思ってしまいます。
石川氏:ロキサーニはアブの良さを多くの方に広めたい、という想いから作り上げたシリーズです。価格はリーズナブルですが、機能はふんだんに盛り込んでいます。
編:確かにコスパが良いイメージがあります。
石川氏:アブの威信を賭けた、かなりコスパが良いリールです。ベイト・スピニング共にラインナップがありますので、是非手軽に触っていただきたいですね。
取材陣も名残惜しいと感じるほど濃密なインタビューとなりました。半世紀以上前にスウェーデンの地で産声を上げたアブの歴史ですが、現在のリールづくりにも脈々と開発の「意思」が受け継がれています。
アブ・ガルシア編の最終回となる次回は実際に同社のリールに触れてその想いを感じる「スタッフ釣行編」。リール実機を使用してのインプレッション企画です。