【連載#1】プロが語るリールメンテナンスの基礎

皆さんはどのようにリールのメンテナンスを行っていますか?大切なリールを長く使用するためにも日頃からのお手入れはかかせません。本連載ではメンテナンス初心者の方にもわかるように、基礎中の基礎からプロに教わっていきます。

ご協力いただいたのはリールのオーバーホール専門ショップ「Selffish(セルフィッシュ)」の鈴木氏。同氏が現在まで分解清掃・整備したリールの数はなんと約20,000台にのぼります。そんなリールのプロが語るリールお手入れの基礎とは?メンテナンスど素人のスタッフぐっちーが突撃取材してみました!

▼シリーズ記事はコチラ
【連載#1】プロが語るリールメンテナンスの基礎
【連載#2】実際にリールのメンテナンスをやってみよう!スピニングリール編
【連載#3】実際にリールのメンテナンスをやってみよう!ベイトリール編

▶セルフィッシュ 公式ホームページはこちら

セルフィッシュ代表の鈴木氏。JB(日本バスプロ協会)トーナメンターの経験を持つ実力者。

「オーバーホール」と「メンテナンス」の違い

ツリグラスタッフ ぐっちー(以下ぐっちー) :セルフィッシュは「リールのオーバーホール専門店」ですよね。このオーバーホールとメンテナンスはどう違うのでしょうか?

鈴木氏:個人によって認識の違いもあるのですが、セルフィッシュでは、
★オーバーホール・・・工具を使って分解し、内部のパーツチェック・清掃グリスアップ、場合によっては修理を行うこと
★メンテナンス・・・正常に動作させるために行う日常的な作業
と定義しています。

ぐっちー:なるほど。なんだか素人にはオーバーホールは難しそうなかんじが・・・。

鈴木氏:基本的にオーバーホールはメーカーや専門店への依頼をオススメします。分解するとなると経験が必要になるので、下手をすると以前より悪い状態になってしまうかもしれません。

ぐっちー:僕も自分でリールを分解したことがありますが、「あれ、これどの部分のネジだっけ?」みたいなトラブルがありました・・・笑

鈴木氏:ですよね。個人の見解になりますが、100時間使用を目安にオーバーホールに出していただきたいです。100時間も使用すると何かしら不具合が出てきます。人間の体と似ているのですが、1つの不具合が他の不具合を招くケースもあるので、1つのリールを永く使いたい方は定期的にオーバーホールに出すことをオススメします。

ぐっちー:なるほど。メンテナンスは簡単にできるのでしょうか?

鈴木氏:やり方さえ覚えてしまえば簡単だと思います。動作に影響が出てくる前に定期的にメンテナンスをしてみてください。


リールをメンテナンスしないと・・・?

ぐっちー:僕はどうしても釣行後のメンテをサボってしまいます 笑。メンテナンスを怠ると、どういったトラブルが起きるのでしょうか?

鈴木氏:海水と淡水使用時でリールへの影響は大きく違います。特にソルト使用後の影響は大きいです。例えば巻きが重たくなる、ひどい場合はハンドルが回らなくなる、とか。それが1週間くらいで発生する場合もあります。

ぐっちー: 1週間・・・。買ったリールがそんな短期間で使えなくなると発狂しそうです。原因はやはり塩ですか?

鈴木氏:そうです。この塩だけは釣行後に必ず水洗いして落としてください。この時の注意点ですが、ぬるま湯はグリスまで洗い流してしまうので必ず冷たい水で洗ってください。

ぐっちー: なるほど。僕の場合、雑なので水道水でジャーっと洗い流してました・・・。

鈴木氏:それでも良いのですが、シャワーでなるべく水圧がかからないように(グリスを流さないように)洗ってあげたほうがなお良いですね。 ※詳しいリールのお手入れの解説は次回掲載予定


オイルとグリスの違い

セルフィッシュのオリジナルメンテナンスキット

ぐっちー: 釣具屋でよくオイルとグリスがセットで売ってますよね。この2つはどう違うのでしょうか?

鈴木氏:グリスとオイルは元は同じもので、オイルに増稠剤という粘性を出すための添加物を加えたものがグリスになります。 つまり、粘度はグリスのほうが高いです。

ぐっちー:なるほど。この2つはどうやって使い分ければいいのでしょうか?

鈴木氏:具体的に言うと「金属同士が圧力を伴って接触する箇所はグリス、接触はするが圧力はかからず高速での動きを必要とする個所はオイル」という使い分けになります。グリスによる潤滑は滑らかでノイズも少ないですが動きに抵抗が生じるため、ベアリングなど高速で回転するような場所には向かず、ギヤなどに適します。

ぐっちー:それぞれ適した場所があるわけですね。

鈴木氏:どちらを塗ればいいかわからない場合は、オイルとグリスをどちらも使ってみて良いと思う方を使ってもらえればOKです。もとは同じものなので。

※注油してはならない機種もあるのでメンテナンス前に必ずチェックをしてください



メンテナンスの頻度

ぐっちー: どれくらいの頻度でメンテナンスをしたら良いのでしょうか?

鈴木氏:オイルとグリスで頻度は異なります。オイルの場合、揮発がグリスより早いので潤滑性が無くなった時点で注油する必要があります。個人の意見ですが、「釣行時間」を目安にオイルを挿して欲しいです。良質なオイルならば【20~30時間に1回】でOKです。

ぐっちー:グリスはどれくらいの頻度で塗ったほうが?

鈴木氏:グリスはほぼ揮発しないので2~3年はそのままで大丈夫です。ただし、少しずつ汚れてくるので定期的にチェックする必要があります。基本的にはオーバーホールに出すタイミングでも大丈夫なのですが、それを待てずに汚れているようであればグリスを塗りなおすことをオススメします。

ぐっちー:メンテナンスではオイルを頻繁に使用するわけですね。

鈴木氏:そうなりますね。実は「潤滑さが無くなるタイミング」というのも使用するオイルの質によって異なります。

ぐっちー: これまた深い話ですね 笑

鈴木氏:100円ショップなどで売っている安価なオイルは、メンテナンス直後は効果があっても短期間で揮発してしまい効果がすぐに薄れてしまいます。リールメーカーさんが販売しているオイルは揮発しにくいのですが、粘度が高く少し重たいものが多いです。しょうがないのですが、オイルは「揮発のしにくさ」と「粘度」を両立できません。これをかなり高い次元で両立しているのが、高価格帯のオイルです。僕の場合、理想のオイルを見つけるまで約10年かかりました 笑

ぐっちー:どちらかの機能を上げると一方が下がってしまうのですね。

鈴木氏:ただし、リールメンテ初めての方はメーカー純正のものが十分使いやすいと思います。迷ったら純正のものを買っていただければ間違いありません。

次回:「実際にメンテナンスをやってみよう!スピニングリール編」に続く・・・



◆◇セルフィッシュ 鈴木 康哲(すずき やすのり)氏 プロフィール◇◆
2003年から中古釣具店で買取したリールの分解・清掃経験を積む。整備したリールは通常の倍の速度で売れていく経験から、多くのアングラーはリールの違いを感じ取っていることを実感しセルフィッシュを開店する。現在まで分解清掃・整備したリール は約20,000台。作業実績から得た経験から、どのリールはどこが傷みやすいなどの特性を統計的に把握し、セルフィッシュでは予防的視点をもって作業を行っている。現在は「1つのリールを長く使い続けて欲しい」 との想いで日々努力を重ねている。

セルフィッシュ公式ホームページはこちら