~特集~ 釣具に歴史ありとは?
釣具に歴史あり。数多ある釣具の歴史を紐解いていく特集です。いかにして現代の釣具は完成されてきたのでしょうか?普段の釣行では何気なく使っている釣具。しかしその歴史に触れると、また違った見え方になるかもしれません。
シリーズ初となる今回は「アブ・ガルシア(AbuGarcia)」「バークレー(Berkley)」等、多くのブランドを展開し、アングラーにも馴染み深いピュア・フィッシング・ジャパン(以下PFJ)を特集。同社の歴史と象徴的な存在でもあるアブ・ガルシアのベイトリールにスポットを当てます。
全4回でお届けするアブ・ガルシア編。 取材にはPFJの製品開発に尽力されてきた立原資朗氏、PFJ商品開発の中枢を支える石川雅敬氏、という豪華メンバーにご協力いただきました。 第1回は題して「すべての起源、アブ社の創立」。人呼んで「PFJの生き字引」ことテクニカルサポートマネージャーの立原氏にお話を伺いました。
【アブ・ガルシア編:第1回】すべての起源、アブ社の創立
ツリグラ編集部(以下 編):アブ・ガルシアは会社創立からの歴史も長いと思います。早速ですが、まずは会社の成り立ちを教えてください。
立原氏:アブ・ガルシアの歴史は1921年スウェーデンでカール・アウグスト・ボーストラムという時計職人がアブ社を創立するところから始まります。勤めていた時計会社が倒産してしまったため、会社を新たに興したわけです。実は当時のアブ社はタクシーメーターや電話管理時計(電話の数をカウントする時計)といった、釣り具とは全く関係のない製品を作っていました。
編:時計とは意外ですね。釣具を作り始めたのはどのような経緯だったのでしょうか?
立原氏:2代目社長のイエテ・ ボーストラム に代わり、事業拡大を目指すタイミングで世界的な出来事が起きます。1939年から始まった第2次世界大戦です。海運が閉ざされ輸出ができない状況に陥り、アブ社に逆風が吹き始めます。さぁこれからどうしようか、という時に白羽の矢が立ったのが「リールづくり」です。
編:なぜリールづくりに着目したのでしょうか?
立原氏:立原氏:大戦中でも中立国のスウェーデンの釣り人は釣りをしていたそうです。しかし当時はアメリカ製の輸入リールがメインでしたが戦争で輸入が止まり、手元には釣具がない。需要があるから釣具は売れるんじゃないか、というのが始まりでした。もともと精密機器を作っていたアブ社にはリールをつくる施設も技術も手元に揃っていたわけです。初めて形にしたのは「RECORD」というブランドの1500、1600、1700、1800番という4つのリールでした。 しかし始めはそう簡単にいかなかったようです。
編:と、言いますと?
立原氏:始めはRECORDの各番手のサンプルを25個ずつ作って商社に売込みに行ったそうです。しかし返ってきたのは「Pebeco(ペブコ)の名でOEMなら作っていいよ」という回答。同時期に他社で代理店契約を結ぶことができました。こういった経緯で当初は「RECORD」と「Pebeco」の同時並行で世に売り出されました。これで釣具の会社として大事な一歩を踏み出したわけです。当時の工場の写真も残っています。
編:左上に小さく「RECORD」の看板も見えますね。
立原氏:さらに工場に隣接するモラム川沿いにアブ社が所有するコッテージ付の専用釣場があったことで、アブ社の歴代の社長は国王と一緒にアトランティックサーモン・フィッシングを楽しまれた経験もあります。
編:国王に釣りのノウハウをレクチャーしていたとはすごいですね
笑
アブ・ガルシアの象徴となっているあのエンブレムもそこから由来しているのでしょうか?
立原氏:そのとおりです。大戦後の1951年には王室御用達の栄誉を受け、クレストマーク(スウェーデン王室のエンブレム)を製品につける事を許されました。王室御用達の栄誉を受け、ブランドに磨きをかけていったわけです。クレストマークは現行の機種にも多数表記されています。
編:あのクレストマークにはそういった経緯があったわけですね。この頃から「釣具メーカー」として売り出していたのでしょうか?
立原氏:そうです。この頃はすでに釣具しか作っていません。実はこの当時からルアーも数多く作っていました。歴代のルアーの写真もあります。
編:これはマニアからするとたまらないですね!
立原氏:最初はリフレックスやサラーなどのスピーナーやスプーンからスタートしてプラグは有名どころでいうとアブキラー、ハイローかな?(下写真左から3番目キラー、4番目ハイロー) サーモンやパイク用のルアーがメインですね。
編:アブキラー!懐かしいですね。
立原氏:この頃のルアーの形状を見ても、現代のルアーに通じるものがあります。そして舞台はいよいよアメリカに移っていくわけです。
——— 時計会社から釣具メーカーへ転身したアブ社。
ついに後に日本でも一大旋風を巻き起こす、あのリールが誕生します ———
<第2回:伝説的リール、アンバサダーの誕生>へ続く・・・
近日公開予定です。